「少額管財」って何だろう?~利用しやすいように考え出された制度~
今回は、少額管財とはどのような手続なのかについて、ご紹介します。
少額管財事件とは
繰り返しご説明してきましたが、自己破産の手続には「管財事件」と「同時廃止事件」があります。
「管財事件」とは、裁判所によって「破産管財人」が選任され、その破産管財人が、破産者の財産を調査・管理・処分し、債権者に配当するという破産手続です。一方、「同時廃止事件」とは、破産管財人を選任せず、破産手続の開始と同時に破産手続が廃止により終了するという手続です。
さらに管財事件には「少額管財」と呼ばれる運用がなされている裁判所があります(*1))。
少額管財とは、裁判所への予納金の金額を通常の管財事件の場合よりも大幅に少額で済むように設定したものです。(*2)
*1 ただし,裁判所によっては若干名称が異なる場合もあります。
*2 このため,「少額管財」と呼ばれています。
少額管財事件を設けた目的
管財事件では、裁判所が破産管財人(*3)を選任して、その破産管財人が財産調査・管理・処分・債権者対応や配当などを行い、裁判所に代わって破産手続を主導していく制度です。要するに、「裁判所が破産手続の遂行を、裁判所外部の弁護士に外注する」ような形をとっているわけですが、一方で破産管財人への報酬を支払う必要も生じてきます。
加えて、破産管財人が遂行すべき管財業務が複雑で面倒なものであれば、それだけ費用もかかりますし、破産管財人に支払うべき報酬額も増えていきます。なお、この破産手続費用や破産管財人報酬は、破産者の財産から支出されることが基本となりますので,自己破産の申立てに際して裁判所に支払わなければならない予納金も、高額となる場合があります。(*4)
しかし、これでは,自己破産を一部の人しか利用することができなくなってしまうおそれもありますし、何よりも借金で苦しむ人の経済的更生を図ることができなくなってしまいます。
そこで,個人消費者や中小零細事業者でも自己破産を利用して経済的更生を図れるようにするために、破産手続の予納金を少額化したものが「少額管財」という制度なのです。
*3 この破産管財人には弁護士が選任されることになっています。
*4 通常の管財事件の引継予納金は,基本的に50万円からとされています。
同時廃止の問題点(モラルハザード)
このように、「少額管財」という手続は、裁判所に納付する引継予納金を少額化することで「自己破産の手続を利用しやすくする」という目的があります。
しかし、実はそれ以外にも重要な理由があります。
それは、「同時廃止におけるモラルハザード」という問題です。
同時廃止の場合、破産管財人を選任せず、破産手続も開始と同時に終了します。
そのため、裁判所に支払うべき予納金は、管財事件に比べればはるかに少額で済みます。(*5)
同時廃止であれば、費用が特定管財手続の場合に比べて大幅に安くすみますので、申し立てる側としては、管財事件ではなく同時廃止事件として自己破産の申立てをしたいと考えるのは至極当然のことといえます。
ところが、同時廃止は、実際には破産手続が行われません。
当然、破産管財人による調査も行われないことになりますので、十分な資産の調査や免責の調査が行われないおそれがあるということになります。つまり、資産や免責不許可事由を隠し通すような非合法な手法が通ってしまう危険性があるのです。
しかし、それでは,債権者の利益をあまりにも害することになります。
このような、「同時廃止申立てのモラルハザード」とでもいうべき事態が多く生じたこともあって、裁判所としても、同時廃止の運用に慎重にならざるを得なくなりました。
そうはいっても、破産管財人による十分な調査を行うためには、管財事件にしなければなりませんが、今度は、予納金が高額となり個人消費者や中小零細企業の自己破産申立てについてハードルが上がってしまいます。
そこで、予納金を利用しやすい金額に設定しつつ、管財事件とすることによって破産管財人による十分な調査ができるようにしたのが「少額管財」という制度なのです。
少額管財はあくまで管財手続ですから、破産管財人による適切な調査が行われ、不当な資産隠し等を防止できます。
しかも、予納金が低額であるため、無理に同時廃止を申し立てることも防ぐことができるという制度運用なのです。
*5 同時廃止の予納金は2万円程度とされています。
少額管財の特徴
前述のとおり、「少額管財」は、破産管財人の調査を経ることにより、資産隠しや免責不許可事由隠しなどの不正が生じることを防ぎつつ,予納金を少額にして、個人や零細企業にも利用しやすいようにするために考え出された制度です。
そうは言っても、実のところ「破産法」には、「少額管財」という制度は規定されていません。少額管財は,法律上の特別な制度というわけではなく、管財事件の予納金を少額で済むようにするという裁判所の運用方法です。(*6)
*6 裁判所によっては,少額管財の運用をしていないところもあります。自己破産を申し立てる前にあらかじめ確認しておく必要があるでしょう。
(1)予納金が少額であること
少額管財は、予納金の金額が少額となっています。
東京地裁では、1万円強の官報公告費と20万円の引継予納金が原則となっています。
(2)手続が簡易・迅速になっていること
少額管財事件の場合には、予納金が少額となっています。
予納金が少額ということは、「破産手続遂行のための費用や破産管財人の報酬も少額で済まさなければならない」ということを意味します。
したがって、少額管財となるのは、費用のかかるような財産管理処分などの業務がない事件で破産管財人報酬が高額とならないような、処理が簡便な事件でなければならないということになります。(*7)
逆に、破産手続費用が高額となるような場合や処理が複雑となるような事件については、少額管財ではなく、通常の管財事件となることがあるといえます。
*7 実際、少額管財の場合には申立てから2~5か月程度で終了しています。
(3)弁護士代理人による申立てが必要であること
破産管財人の負担軽減に関連して、少額管財の申立ては「申立ての代理人として弁護士を選任した場合だけしかすることができない」というのも特色の一つとなります。
弁護士が代理人となることによって、申立前に、ある程度まで調査を終わらせておくことにより、手続の簡易・迅速化を図ろうというのが狙いです。(*8)
*8 独力で申し立てる場合には通常の管財事件か同時廃止手続かのどちらかになってきます。