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自己破産すると退職金はどうなるのか?~自己破産における財産処分(その6)~

こんにちは。管理人です。

借金地獄からに脱却における必殺技、「自己破産」。

自己破産をした場合には、借金をチャラにしてもらう(=免責を受ける)ために、「自由財産」を除く保有資産を差し押さえられることになります。

その「財産処分」について、一つずつ見ていきましょう。

今回は「勤務先からの退職金はどうなるの?」についてです。

すでに受領している退職金の取扱い

勤務先を退職し、すでに退職金が支払われている場合は、その金銭が現金として保管されているのであれば現金として扱われ、預金・貯金口座に入っているのであれば預金・貯金として扱われることになります。

したがって、原則として、その金銭の由来が退職金であったかどうかではなく、現金または預貯金として換価処分すべきかどうかが決められることになります。

まだ受領していない退職金の請求権の取扱い

一方で、退職はしたものの、まだ退職金を受け取っていない場合、あるいは、まだ退職さえしていないという場合はどうなるのでしょうか。

実は、この場合では、もらえるであろう退職金を請求することができる債権が財産として扱われます。(*1)

そして、この退職金債権は、その4分の3が差押禁止債権となりますが、残りの4分の1は差押えが可能です。

このため、退職金債権の4分の3は破産手続上も自由財産となりますが、残りの4分の1は自由財産とはならず、換価処分の対象となるのが原則です。

要するに、破産法の建前でいくと、破産手続開始決定の時点で退職したならばもらえるであろう退職金のうちの4分の1は換価処分できることになります。

ただし、この退職金の金額は、あくまで破産手続開始時点で退職したらいくらもらえるのかということが基準です。(*2)

以上から、「退職金債権を換価処分する」とは破産管財人が勤務先の会社から退職金債権の4分の1を取り立てる」ということを指しています。

そうは言っても、退職金を回収するためには、その勤務先を退職するか、または退職金の前払いをしてもらわないといけないということになります。

そうすると、破産者に会社を退職してもらうか、または、破産管財人が会社に対して退職金の4分の1の前払いを請求するということになります。

しかし、勤務先を退職すると破産者は収入を失いますし、また破産管財人が勤務先に請求すると、破産したことが会社に知られてしまい、後々の勤務に悪影響を及ぼすおそれがないとも言えません。

そこで、破産者が破産管財人に対して退職金支給見込額の4分の1に相当する金銭を支払う代わりに、退職金債権を破産財団から放棄(または実施的に回収が完了した形に)してもらうという取扱いをするのが通常となっています。

前述のとおり、退職金債権のうち4分の1は財産換価処分の対象となりますが、現実問題として、退職金自体、かなり高額となることが多いため、その4分の1を代わりに破産者が積立てるといっても、たやすいことではありません。

退職金の4分の1だけを積立てて自己破産すれば将来全額もらえるのだから不都合はないとも考えることもできまますが、実際のところ、将来、退職するときに退職金が支払われるのか、さらに言えば、勤務先自体が存続しているのかすら分かりません。(*3)

したがって、4分の1は換価対象であるという原則を厳格に適用しすぎると、退職金がある人は自己破産することが難しくなってしまうということになってしまいかねません。

そこで、東京地方裁判所では、財産換価(自由財産拡張)基準を設けており、退職金債権については、自由財産となる範囲を拡大する運用をしています。

もっとも、どのようなケースでも自由財産拡張が認められるわけではありません。

では、次に自由財産拡張が認められるケースについて見ていきましょう。

*1 もちろん、勤務先に退職金制度があることが前提です。(無い場合は問題になりません)

*2 将来定年退職した場合というわけではありません。

*3 一概に退職金を将来もらえるからよいと考えることもできません。

退職金について自由財産拡張をどのように判断するのか?

(1)すでに退職しているが退職金を受け取っていない場合

すでに退職しているが退職金を受け取っていない場合、今後退職金を受け取ることができるのは、ほぼ確実と言えます。

そのため、この場合は、自由財産の拡張はされません。破産法の原則どおり、退職金債権の4分の1が換価処分の対象となります。

(2)まだ退職していないが、破産手続中に退職することが決まっている場合

まだ退職していないが、破産手続中に退職することが決まっている場合も退職金を受け取ることができるのは、ほぼ確実です。

したがって、この場合も、すでに退職している場合と同様に自由財産の拡張はなされず、退職金債権の4分の1が換価処分の対象となるとされています。

(3)まだ退職をしていない、かつ、破産手続中に退職する見込みもない場合

この場合、確かに将来退職金をもらえる見込みがあるとはいっても、現実に退職金が手元に入ってくるのはまだまだ先の話です。

しかも、いざ将来退職するというときには、本当に退職金がもらえるのかどうかは未知数です。

この場合、そのような不確定な要素があるにもかかわらず、退職金債権の4分の1を換価処分できるとすると、破産者に不当な負担を与えてしまう可能性もあります。

そのため、東京地裁では、財産換価(自由財産拡張)基準によって、退職金支給見込額の8分の7を自由財産とするという運用をしています。

つまり、換価処分が必要な範囲は、退職金債権の8分の1だけで済むということです。

さらに、この8分の1の金額が20万円に満たない場合には、退職金債権全額を自由財産とするという運用をしています。

分かりやすく言えば、換価処分されるのは退職金支給見込額が160万円以上の場合だけであり、しかも,その8分の1だけ換価処分すればよいということです。

退職金請求権と同時廃止の関係

自己破産の申立てについて「同時廃止」となるのは、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときです。

したがって、退職金債権の8分の1と他の財産の合計が破産手続費用を支払うのに足りない場合には、同時廃止となります。

さらに、東京地裁の運用では、「破産手続開始時に退職しておらず、かつ、破産手続中に退職する見込みがない場合は退職金債権について自由財産の拡張を行うという取扱いがなされています。

具体的には、退職金債権の8分の1が20万円未満の場合には、退職金債権全額について自由財産となりますから、退職金債権は考慮されず、その他の財産で破産手続費用を支払うのに不足するのであれば、同時廃止となります。

例を挙げてみましょう。

申立人が破産手続開始時にまだ退職しておらず、退職する予定もないという場合で、80万円の退職金支給見込があり,これに加えて15万円の財産を持っていたとします。(他の財産・免責不許可事由は無いものとします)

このケースでは破産法の原則だと、退職金債権の4分の1の20万円と15万円の財産の合計35万円の財産があることになるので、同時廃止とはならないことになります。

ところが、東京地裁の運用では、退職金債権の8分の1が20万円未満の場合には退職金債権全額が自由財産となり、破産財団に組み入れられませんから、破産財団としては退職金債権以外の財産10万円しか無いということになります。

したがって、20万円の破産手続費用を支払うだけの財産が無いということになるので「同時廃止」となります。(*4)

*4 あくまで東京地裁の「運用」です。場合によっては、財産が25万円あると判断され「少額管財」となることもあり得ます。

・・・以上が「自己破産における退職金の取扱い」に関する、ご紹介でした。

サラリーマンにとって「退職金」は大きな財産です。

自己破産をご検討されている場合は、この点について十分に理解されるよう、専門家(弁護士・司法書士)へ相談されることをおススメします。

では、また。