「自由財産」とは?~自己破産しても処分しなくてよい財産~
自由財産とは
破産手続においては、「破産手続開始時」に破産者が有している差押え可能な財産が破産財団に組み入れられ、それらは破産管財人の管理のもと換価処分されて、破産債権者等に弁済または配当されます。
そうは言っても、個人の破産の場合は、その破産者は自己破産も後も生活していかなければなりません。
このため、破産者の有するあらゆる財産を処分してしまうと、仮に免責が許可されたとしても、その破産者は生活をしていくことができなくなってしまうおそれがあります。
そうなってしまうと、免責を許可する意味がありません。
加えて、債務者の経済的更生を図るという破産法の目的・理念に反します。
そこで、破産法においては、個人の破産の場合、生活に必要となる最低限度の財産(または破産手続上換価ができない財産)については、破産者が有する財産であっても破産財団に属さないものとしています。
要するに、自己破産したとしても、その財産は処分対象外となるということです。
この財産のことを、破産者が自由に利用・処分できる財産という意味で「自由財産」と呼んでいます。(*1)
また、「個人財産」は以下のものがあります。
①新得財産
②差押禁止財産
③99万円以下の現金
④自由財産拡張が認められた財産
⑤破産管財人が破産財団から放棄した財産
では、順にみていきましょう。
*1 なお,法人破産の場合には自由財産は認められません。自由財産が認められるのは、あくまで個人破産の場合のみです。
新得財産
破産法では、破産財団に組み入れられる財産は、破産手続開始時に破産者が有している財産でなければならないとしています。
したがって、破産手続開始後に破産者が新たに取得した財産は、破産財団に組み入れられないということになります。
この破産者が破産手続開始後に新たに取得した財産のことを「新得財産」といいます。
差押禁止財産
法律上では、差押えができない財産があります。
この財産のことを「差押禁止財産」といいます。
破産財団に組み入れられる財産は、差押えが可能な財産でなければなりませんから、この差押禁止財産も「自由財産」となり、処分の対象となりません。
「差押禁止財産」の主たるものは、「差押禁止動産」や「差押禁止債権」であり、民事執行法に規定されています。
「差押禁止動産」とは、差押えが禁止されている動産で、生活必需品などがこれに当たります。
一方の「差押禁止債権」とは、差押えが禁止されている債権です。
99万円以下の現金
破産法では、「民事執行法第131条第3号に規定する額に2分の3を乗じた額の金銭(*2)」は「破産財団に属しない(=「自由財産」である)」とされています。
では「民事執行法第131条第3号に規定する額」とはどれくらいの金額かというと、それは「標準的な世帯の2月間の必要生計費を勘案して政令で定める額」であるとされており、66万円とされています。
したがって、自由財産となる現金は「民事執行法第131条第3号に規定する額に2分の3を乗じた額」の現金ですから、「66万円に2分の3を乗じた額の現金」イコール99万円ということになります。
以上から、自己破産をしても、現金であれば99万円までは持っていてよいということです。
自由財産の拡張がなされた財産
上の3つ(新得財産・差押禁止財産・99万円以下の現金)は、自由財産となることが確実な財産として「本来的自由財産」と呼ばれています。
とはいうものの、「本来的自由財産」だけでは、破産者の最低限度の生活を維持できないというケースもあります。
そこで、本来的自由財産ではない財産であっても「裁判所の決定によって自由財産として取り扱うことができるようになる」という制度が設けられています。
この制度のことを「自由財産の拡張」といいます。
したがって、裁判所によって自由財産拡張が認められた財産については、処分しなくてよいということになります。
破産管財人によって破産財団から放棄された財産
破産手続においては、破産財団に組み入れられることになった財産であっても、「処分費用が高い」とか「買い手がつかない物である」等の理由で、容易に換価処分ができない財産もあります。
このような場合、破産管財人は、裁判所の許可を得て、「換価処分が不可能あるいは困難な財産」を破産財団から除外する措置をとることができます。
これを「破産財団からの放棄」といいます。
「破産財団から放棄された財産」は、破産財団所属の財産ではなくなりますので、自由財産として扱われることになります。
要するに、「破産財団から放棄された財産」も処分しなくてよいということになるのです。
「破産財団」とは?
破産財団の意味
破産財団に組み入れられる財産
自己破産した場合には「処分しなければならない財産」と「処分しなくてもよい財産」がある
個人の自己破産の場合には、処分しなくてもよい財産(自由財産)が認められています。
したがって、自己破産において処分しなければならないのは、「自由財産に該当しない財産」ということになります。
本稿では、この自己破産した場合に処分しなければならない財産について、ご紹介します。
自己破産における財産の換価処分
破産手続は、破産者の財産を処分して金銭に換価し、それを債権者に公平に弁済・配当するという手続です。
したがって、自己破産においては、破産者の方の財産を処分することが必要となってきます。
自己破産をした場合に処分しなければ財産は、「破産財団」として、破産管財人が管理・処分していきます。
破産財団に組み入れられる財産は、「破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産」が原則ととされています。
この破産財団には、不動産・動産などの「物」だけではなく、金銭の請求権などの「債権」、著作権などの無形の権利なども幅広く含まれます。
さらに、換価できるのであれば、権利とはいえないノウハウなども、ここでいう財産に含まれると考えられています。
自己破産すると全財産が処分されてしまうのか?
前記のとおり、自己破産において処分の対象となり得る財産は、「破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産」であり、しかも、その財産の範囲は、かなり幅広く解釈されています。
そうすると、自己破産をしたら、破産者の方が有している全財産を処分しなければならないということになりそうですが、実際にはそのようなことはありません。
破産手続においては、破産者(債務者)の経済的更生の観点も考慮することも目的の1つとされています。
個人債務者の方が、自己破産をして免責が許可されたことにより、借金が無くなったとしても、その代わりに、すべての財産が没収されてしまうというのではその後の生活が成り立たなくなってしまうことも考えられます。
生活が成り立たなくなってしまうのであれば、自己破産をした意味がまったくなくなってしまいますし、債務者の経済的更生を図るという破産手続の目的も達成できなくなります。
そこで、個人の方の自己破産の場合には、全財産を処分しなければならない、とまではされていません。
財産のうちで「自由財産」と呼ばれる財産に該当する財産は処分しなくてもよいことになっています。(*1)
したがって、個人の方の自己破産において処分しなければならない財産とは「自由財産に当たらない財産」であるということになるわけです。
なお、処分しても換価価値の無いようなものは、当然、換価の対象になりませんし、あまりに廉価で処分コストの方が高いことが明らかです。
つまり、事実上換価価値が無いといえるようなものは、換価対象にはなりえません。
*1 自由財産が認められるのは個人の破産の場合のみです。法人の破産の場合には自由財産は認められていません。したがって、法人の破産の場合には、全財産の処分が必要となります。
自由財産(処分しなくてもよい財産)
前記のとおり、自由財産に当たる財産は、自己破産をしても処分しなくて済みます。破産法上、自由財産に当たるとされているのは,以下の財産です。
① 破産手続開始決定後に取得した財産(新得財産)
② 法律上差押えが禁止されている財産(差押禁止財産)
③ 99万円以下の現金
④ 自由財産の拡張がされた財産
⑤ 破産管財人によって破産財団から放棄された財産
(1)破産手続開始決定後に取得した財産(新得財産)
自己破産において処分の対象となる財産は、破産手続開始決定時に破産者が有している財産とされています。
したがって、破産者の方の財産であっても、破産手続開始決定後に取得した財産は、「新得財産」といって、換価処分の対象から外されますので、自由財産に当たるということになります。
(2)法律上差押えが禁止されている財産(差押禁止財産)
破産手続は、制度的にみると、債権者全員による民事執行であるともいえます。
そこで、さまざまな理由から民事執行において差押えすることを禁じられている財産については、破産手続においても換価処分を認めるべきではないといえます。
そのため,差押えが禁止されている財産も、自由財産となります。
(3)99万円以下の現金
債務者の生活の確保のため、現金も差押禁止財産とされます。
ただし、民事執行では、差押えが禁止される現金は66万以下までとなっています。
破産手続では、すでに債務者が経済的に破たんしており、民事執行の場合よりも債務者の生活費が不足しているのが通常であることから、保護される現金の範囲を拡大して,99万円以下の現金は自由財産となるものとしています。
(4)裁判所によって自由財産の拡張がされた財産
上記の財産以外はまったく自由財産にならないのかというと、そんなこともありません。
上記の財産に該当しない財産であっても、自由財産の拡張という制度によって、裁判所が自由財産としてもよいとした財産は自由財産になります。
とは言うものの、自由財産の拡張は、裁判所や破産管財人が判断するものです。
ですから、自由財産の拡張を申し立てれば必ずし自由財産になるというわけではありません。
(5)破産管財人によって破産財団から放棄された財産
破産管財人が換価処分しないと判断して破産財団から放棄することとなった財産も、自由財産となります。
ただし、破産財団からの放棄も裁判所や破産管財人が判断するものですので、必ずしも自由財産となるというものではありません。
・・・以上が「自己破産した場合に処分しなければならない財産(=破産財団)と処分しなくてもよい財産(=自由財産)」のご紹介でした。
個人の財産は「自由財産」を認めることで資産を差し押さえをることができる、となるわけですから、手元に何が残るのかについては十分に把握しておいたほうが良いでしょう。
自己破産を視野に入れておられる方々はいちど、専門家(弁護士・司法書士)に相談されることをおススメします。
では、また。
「破産手続開始決定」が持つ効力とは?~旧「破産宣告」の及ぼす効力~
この破産手続開始決定がなされると、各種の法的効果力が生じます。
本稿では、破産手続開始決定には、どのような効力があるのかについて、ご紹介しましょう。
破産手続開始決定(旧「破産宣告」)
自己破産を申し立てたからといって、それだけで、即、破産手続が開始されるというわけではありません。
破産手続は、裁判所による「破産手続開始決定」によって初めて開始されることになります。
「破産手続開始決定」とは、文字どおり、「破産手続を開始することを認める決定」のことを指します。(*1)
「破産手続開始決定」によって、破産手続が開始されますが、これに伴ってさまざまな効力が発生するとともに、各種の付随処分がなされます。
*1 「破産手続開始決定」は、かつて「破産宣告」と呼ばれていました。
破産手続開始決定の効力
破産手続は、債務者の財産を換価処分して、それによって得た金銭を、すべての破産債権者に平等・公平に弁済または配当するという手続です。
したがって、破産手続においてもっとも重要なことは、「債務者の財産の管理・処分」と「債権者の勝手な権利行使を禁止すること」になります。
そのため、「破産手続開始決定」がなされると、裁判所によって「破産管財人」が選任され、債務者の財産は「破産財団」として扱われ、破産管財人にその「管理処分権限」が与えられることになります。
破産者の財産の管理処分権が破産管財人に属することになるのですから、破産者は、財産を自分で処分することはできなくなります。
また、上述のとおり、破産手続において最も重要なことは、「破産者の財産を換価処分すること」です。
したがって、債務者の財産を正確に把握することが重要です。
そのため、破産手続開始決定がなされると、破産者には、「説明義務」や「重要財産の開示義務」などが発生します。
さらに、各債権者が早い者勝ちで債権回収ができることになってしまえば、公平・平等に財産を分配することも不可能となってしまいます。
そのため、破産債権者は「破産手続」によらなければ権利を行使することができくなります。
つまり、破産債権者は、「破産手続開始後に強制執行等をして債権の回収を図ることは制限される」ことになるわけです。
居住制限
上で書いた通り、破産者には「説明義務」などが生じますが、この義務を十分に果たさせるためには、裁判所は破産者の所在をしっかりと把握しておく必要があります。
そのため、「破産手続開始決定」によって、債務者には「居住制限」が課せられることになりますが、この「居住制限」によって、裁判所の許可なく居住地を離れることができなくなります。
・・・とは言うものの、居住移転する場合でも、事前に移転先を裁判所や破産管財人に伝えておけば、外国移住のような連絡が困難となるおそれがある場合を除いて、居住移転の許可をしてもらえるのが通常です。
通信の秘密の制限
「破産手続開始決定」による付随的な処分の一つとして、裁判所は、破産者宛の郵便物を破産管財人に配達するように郵便事業者に嘱託することができます。
この処分は、破産管財人が破産者の財産等を調査するためのものですが、具体的に言うと、「破産者宛ての郵便物を破産管財人に転送する措置をとることができる」ということです。
そして、破産管財人は転送されてきた郵便物等を開封して、その郵便物の内容を調査することができる、とされています。
この転送期間は、通常は、破産手続開始の時から第1回の債権者集会の時まで、となっています。
ただし、「継続調査が必要」と判断された場合には、転送期間が延長されることもあります。(*2)
*2 転送期間は破産手続の間だけです。
資格制限
「破産手続開始決定の効力」そのものとは言えませんが、「破産手続開始決定」がなされると、破産者は一定の資格を使えなくなる、「資格制限」という処置を受けることになります。
もちろん、この「資格制限」は「破産免責許可確定」により、免責を受けると、解除されることになります。(*3)
それまでは、一定の資格を使った仕事ができなくなります。
「資格制限」の対象として、よく知られているものとして、警備員や保険外交員、宅地建物取引主任者などがあります。また、弁護士や公認会計士なども同様ですし、成年後見人・未成年後見人、遺言執行者などにもなることができなくなります。
なお、会社の取締役は資格ではありませんが、「破産手続開始決定」によって、会社と取締役との間の委任契約が解除されることになるため、取締役としての地位を失うことになります。
*3 これを「復権」といいます。
官報による公告
「破産手続開始決定」がなされると、付随的な処分として「破産手続開始決定がされたことに関する官報による公告」が行われることになります。
「官報」とは、国が刊行している唯一の機関紙で、法律や条例の制定・改正など国民に広く知らせねばならない事項を掲載したものです。
また、公告とは「国が、官報等を使って、特定の事項を広く国民に知らせること」を言います。(*4)
*4 文字どおり、「公に告げること」です。
自己破産における別除権とは?~破産手続外で行使できる「担保権」~
担保権の優先的地位
冒頭でも書きましたが、お金を貸す場合、借主がお金を返さなかったケースを考慮して、借主が所有しているそれ相当の物を担保とするということがあります。
もし借主がお金を返さなかった場合、貸主は、その担保に取っている物を売却したり、自分のものにしたりすることになります。
住宅ローンなどはその典型ですね。
住宅ローンでお金を貸した銀行などは、借主がそのローンを利用して買った住宅等に「抵当権」という「担保権」を設定するのが一般的です。
もし、借主がローンを返済できなくなったなどの場合、銀行等は「抵当権」を実行して、抵当権を設定しておいた住宅等を競売にかけるなどして売却し、その代金を自分の住宅ローン債権に充当することができます。
さらには、担保権付きの債権は、他の担保権が無い債権(*1)に優先します。
要するに、上記の例で言えば、仮に銀行以外にも借主に対する債権を有している債権者がいたとしても、住宅等を競売などで売却した代金は、まず優先的に銀行の住宅ローン債権に充当されることになり、その後、余剰金が存在した場合のみ、他の債権者に分配されることになるのです。
このように、抵当権等の担保権が設定されている債権は、他の無担保債権に比べてはるかに優先的な地位を有しています。
そこで、破産手続においても、この担保権の優先的な地位を尊重する必要があります。
それが、「別除権」と呼ばれる取扱いです。
*1 これを「無担保債権」と呼ぶことがあります。
別除権とは?
「破産法2条9項」および「破産法65条1項」により、「別除権」とは、「破産手続開始時に破産財団に属する特定の財産に設定されている一定の担保権に基づき,その特定の財産について、破産手続によらずに優先的・個別的に弁済を受けることができる」という権利のことをいいます。
この別除権を有する人を「別除権者」といいます。
このように、法律的な感じで説明すると難しく聞こえてしまうのですが、要するに、「担保権」が設定されている場合は、担保権者は、破産手続が開始されていようがいまいが関係なく、自由に担保権を実行でき、しかも破産手続にかかわらず、その実行によって得た金銭を優先的に自分の債権に充足することができる、ということです。
上述の例でいえば、住宅ローン債務者について破産手続が開始されたとしても、住宅ローン会社は、それを考慮することなく住宅等を競売にかけてしまうことが可能であり、その上、競売によって得た、売却代金を住宅ローン債権に充てることができてしまう、ということです。
また、上で書いた通り「担保権」は、通常、担保を付けていない債権者に優先して、その担保を設定している物や財産から弁済を受けることができます。
そして、この担保権者の「優先的な地位」を破産手続上においても認めるというところに「別除権」の目的があります。
別除権の効果
前記のとおり、「別除権」として認められる担保権は、「破産手続外で行使する」ことができます。
「破産手続外で行使できる」とはどういうことかというと、通常の債権は破産債権として、破産手続において配当を受けるという形で回収することになりますが、「別除権」については、配当を待たなくても、担保権を行使して債権の回収を図ることができるということです。
したがって、別除権者は、破産手続中であっても、担保権を実行して債権の回収を図ることが可能です。
例えば、破産手続が開始された後でも「競売」などを申し立てることもできるということになります。
また、通常の破産債権者は、配当によってしか債権回収を図れなくなるので、通常は全額を回収することができません。
しかし、別除権者は、担保権を実行することによって、その担保物の価値によっては、債権の全額を回収することができる場合もあります。
さらに、別除権者が担保権を行使した結果、全額を回収できなかったとしても、その残りの回収できなかった部分については、通常の債権者と同様に破産手続に参加することができます。
つまり、担保を実行しても回収できなかった部分があっても、その部分については、破産手続における配当によって,さらにいくらかの回収を図ることができるというわけです。
・・・以上が「自己破産における「別除権」について」のご紹介でした。
本稿が自己破産を視野に入れている方々のご参考となれば幸いです。
では、また。
自己破産における「非免責債権」とは?
非免責債権とは
何度も書いてきましたが、自己破産の目的は、「裁判所から免責の許可を得ること」です。
免責の許可を受けて初めて、借金等の債務の支払義務が免除されるからです。
ところが、免責の許可決定を受けても一部の債権については,免責の効力が及ばないとされています。
つまり、免責許可決定を受けても、その一部の債権については支払義務が免除されないということです。
この免責の効力が及ばない債権のことを「非免責債権」といいます。
要するに、非免責債権は免責されないので「自己破産をしても支払いをしていかなければならない」ということになります。
非免責債権の種類(破産法 第253条 第1項)
では、いったいどのような債権が非免責債権になるのでしょうか?
実は非免責債については、破産法253条1項ただし書き各号で定められています。
具体的には,以下の請求権が非免責債権となります。
繰り返しになりますが、以下のものは、自己破産をしても免責されないので、支払いを継続しなければならないということです。(「」書きは破産法に記載されている正式な用語です)
① 税金や国民健康保険料などの「租税等の請求権」
② 「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」
③ 暴行をして傷害を与えた被害者に対する損害賠償金など「破産者が故意又 は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」
④ 生活費など「夫婦間の相互協力扶助義務に基づく請求権」
⑤ 婚姻費用など「夫婦間の婚姻費用分担義務に基づく請求権」
⑥ 養育費など「子の監護義務に基づく請求権」
⑦ 生活費など「親族間の扶養義務に基づく請求権」
⑧ 個人事業主の従業員の給料など「雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権」
⑨ 意図的に債権者一覧表に記載しなかった債権者に対する債権など「破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権」
⑩ 「罰金等の請求権」
非免責債権と免責不許可
非免責債権とよく混同されやすい概念として、「免責不許可」があります。
非免責債権も免責不許可も、いずれも免責がされないという点では似ていますが、実はまったく異なる考え方に基づいていています。
「免責不許可」とは、免責が許可されないということです。
これに対して、「非免責債権」とは、免責が不許可になるのとは異なり、免責が認められようが認められなかろうが、それに関係なく、そもそも免責がされない債権のことをいいます。
例をあげて考えてみましょう。
Aさんは、Bさんから100万円、Cさんから200万円、Dさんから300万円の借金をしていたとします。
そして、Aさんは自己破産の申立てを行い、免責不許可の決定を受けたとします。
この場合、すべての債権について免責がなされないということになります。
つまり、Aさんは、Bさん、Cさん、Dさんのすべてに対して、借金を支払い続けていかなければいけません。
では、免責許可決定がなされた場合にはどうなるでしょうか?
例えば、Bさんからの借金は非免責債権であったとします。
この場合、Bさんからの借金については免責されません。
しかし、免責許可決定がなされているので、Cさんからの借金とDさんからの借金については免責されることになるのです。
要するに、「免責不許可事由がある場合」には、免責自体が認められませんから、すべての債権が免責されないことになります。
これに対して、非免責債権がある場合、免責許可決定さえなされれば、非免責債権以外の債権については免責されます。
非免責債権だけが免責されない、ということになります。
すなわち、非免責債権については,免責が許可されるのか不許可となるのかはいっさい関係ないということです。
免責が許可されようと不許可となろうと非免責債権については、必ず支払わなくてはならないのです。
・・・以上が「自己破産における非免責債権」についてのご紹介でした。
本稿が自己破産をご検討されている方々にとって、ご参考となれば幸いです。
では、また。
「否認権行使」と同時廃止の関係について知っておこう!~同時廃止にならない可能性~
ここでは、否認権行使の可能性があると同時廃止にならないのかについてご説明いたします。
同時廃止となる場合【破産法 第216条 第1項】
自己破産の手続において同時廃止となるのは、「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるとき」とされています。
ただし、あくまで「認めるとき」ですので、破産手続費用を支払うだけの財産があるかどうかが不明な場合には「同時廃止」とはなりません。
また、実務上、財産がないことが明らかな場合であっても、「免責不許可事由がある場合」や「免責不許可事由がある可能性がある場合」にも、同時廃止ではなく、管財事件になることがあります。
したがって、同時廃止になるのは、以下の条件を満たすときです。
①破産手続費用を支払うだけの財産がないことが明らかな場合
かつ、
②免責不許可事由がないことが明らかな場合
ということになります。
同時廃止の判断対象となる「財産」
同時廃止になるのかどうかの判断において問題となる「財産」とは、破産者が持っている財産そのもの全部というわけではありません。ここでいう財産は、破産財団に組み入れられる財産を指しています。
したがって、破産財団に組み入れられない「自由財産」はここでいう財産には含まれません。
「破産手続費用を支払うだけの財産がないことが明らかな場合」というのは、「自由財産を除いた財産で破産手続費用を支払えないということが明らかな場合」ということになります。(*1)
*1 ただし、現金だけは自由財産であっても判断対象に含められるのが通常です。
否認権行使の可能性と「財産がないこと」の関係
破産者が、実際に自由財産以外の財産を有していないことが明らかであるという場合には、原則として、「破産手続費用を支払うだけの財産がないことが明らかな場合」に当たります。
もっとも、実際には破産者が財産を有していない場合でも「財産があるのではないかと疑いがもたれる場合」がありえます。
例えば「財産隠しをしている」と疑われるような場合です。使途不明な金銭の動きがある場合などが典型的な場合と言えるでしょう。
しかしながら、これだけではありません。
使途不明などでないけれども、財産があるのではないかと疑われる場合があります。
・・・それは「否認権行使」の可能性がある場合です。
「否認権」とは、「すでに第三者のもとへ流出した破産者の手元に無い財産を一定の場合に、破産財団に取り戻す」という破産管財人の権能を指すものです。
この否認権が行使されれば、第三者のもとにある財産が破産者の財産として復帰することになります。
場合によっては、破産手続費用を支払えるだけの財産が戻ってくるかもしれません。
否認権行使の可能性があるときは、財産が破産者の手元に無い場合であっても、財産があるという状態になる可能性があります。つまり、「財産がないことが明らかな場合であるとはいえない」ということです。
したがって、否認権行使の可能性がある場合には「少額管財」となり「同時廃止」とはならないのが通常です。(*2)
*2 ただし、否認権行使の額がわずかであり、仮に否認権行使をしても、破産手続費用を賄うだけの金銭回収が見込めないという場合には「同時廃止」となることもあるでしょう。
・・・以上が「否認権行使」と「同時廃止」の関係についてのご紹介でした。
では、また。