「破産手続開始決定」が持つ効力とは?~旧「破産宣告」の及ぼす効力~
この破産手続開始決定がなされると、各種の法的効果力が生じます。
本稿では、破産手続開始決定には、どのような効力があるのかについて、ご紹介しましょう。
破産手続開始決定(旧「破産宣告」)
自己破産を申し立てたからといって、それだけで、即、破産手続が開始されるというわけではありません。
破産手続は、裁判所による「破産手続開始決定」によって初めて開始されることになります。
「破産手続開始決定」とは、文字どおり、「破産手続を開始することを認める決定」のことを指します。(*1)
「破産手続開始決定」によって、破産手続が開始されますが、これに伴ってさまざまな効力が発生するとともに、各種の付随処分がなされます。
*1 「破産手続開始決定」は、かつて「破産宣告」と呼ばれていました。
破産手続開始決定の効力
破産手続は、債務者の財産を換価処分して、それによって得た金銭を、すべての破産債権者に平等・公平に弁済または配当するという手続です。
したがって、破産手続においてもっとも重要なことは、「債務者の財産の管理・処分」と「債権者の勝手な権利行使を禁止すること」になります。
そのため、「破産手続開始決定」がなされると、裁判所によって「破産管財人」が選任され、債務者の財産は「破産財団」として扱われ、破産管財人にその「管理処分権限」が与えられることになります。
破産者の財産の管理処分権が破産管財人に属することになるのですから、破産者は、財産を自分で処分することはできなくなります。
また、上述のとおり、破産手続において最も重要なことは、「破産者の財産を換価処分すること」です。
したがって、債務者の財産を正確に把握することが重要です。
そのため、破産手続開始決定がなされると、破産者には、「説明義務」や「重要財産の開示義務」などが発生します。
さらに、各債権者が早い者勝ちで債権回収ができることになってしまえば、公平・平等に財産を分配することも不可能となってしまいます。
そのため、破産債権者は「破産手続」によらなければ権利を行使することができくなります。
つまり、破産債権者は、「破産手続開始後に強制執行等をして債権の回収を図ることは制限される」ことになるわけです。
居住制限
上で書いた通り、破産者には「説明義務」などが生じますが、この義務を十分に果たさせるためには、裁判所は破産者の所在をしっかりと把握しておく必要があります。
そのため、「破産手続開始決定」によって、債務者には「居住制限」が課せられることになりますが、この「居住制限」によって、裁判所の許可なく居住地を離れることができなくなります。
・・・とは言うものの、居住移転する場合でも、事前に移転先を裁判所や破産管財人に伝えておけば、外国移住のような連絡が困難となるおそれがある場合を除いて、居住移転の許可をしてもらえるのが通常です。
通信の秘密の制限
「破産手続開始決定」による付随的な処分の一つとして、裁判所は、破産者宛の郵便物を破産管財人に配達するように郵便事業者に嘱託することができます。
この処分は、破産管財人が破産者の財産等を調査するためのものですが、具体的に言うと、「破産者宛ての郵便物を破産管財人に転送する措置をとることができる」ということです。
そして、破産管財人は転送されてきた郵便物等を開封して、その郵便物の内容を調査することができる、とされています。
この転送期間は、通常は、破産手続開始の時から第1回の債権者集会の時まで、となっています。
ただし、「継続調査が必要」と判断された場合には、転送期間が延長されることもあります。(*2)
*2 転送期間は破産手続の間だけです。
資格制限
「破産手続開始決定の効力」そのものとは言えませんが、「破産手続開始決定」がなされると、破産者は一定の資格を使えなくなる、「資格制限」という処置を受けることになります。
もちろん、この「資格制限」は「破産免責許可確定」により、免責を受けると、解除されることになります。(*3)
それまでは、一定の資格を使った仕事ができなくなります。
「資格制限」の対象として、よく知られているものとして、警備員や保険外交員、宅地建物取引主任者などがあります。また、弁護士や公認会計士なども同様ですし、成年後見人・未成年後見人、遺言執行者などにもなることができなくなります。
なお、会社の取締役は資格ではありませんが、「破産手続開始決定」によって、会社と取締役との間の委任契約が解除されることになるため、取締役としての地位を失うことになります。
*3 これを「復権」といいます。
官報による公告
「破産手続開始決定」がなされると、付随的な処分として「破産手続開始決定がされたことに関する官報による公告」が行われることになります。
「官報」とは、国が刊行している唯一の機関紙で、法律や条例の制定・改正など国民に広く知らせねばならない事項を掲載したものです。
また、公告とは「国が、官報等を使って、特定の事項を広く国民に知らせること」を言います。(*4)
*4 文字どおり、「公に告げること」です。